機能面から見た凧の系譜-1975-
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タイトル | 凧の安定性 |
発行物 | nagare |
発行年 | 1975 |
巻号 | 7 巻 3 号 p. 24-29 |
著者名 | 藤田 祐幸 |
リンク | https://www.jstage.jst.go.jp/article/nagare1970/7/3/7_3_24/_pdf |
▼まとめ
・著者は磁性研究者である
・趣味の凧揚げで、構造由来の風の吹き出し機構によって凧の出来不出来があることに気が付いた
・これを基に機能面から見た凧の分類を行った
はじめに
この文献は、昭和50年頃の日本流体力学会の学会誌「nagare」に閑話として掲載された文書と思われる。著者は、当時の慶応大学物理の教員である藤田祐幸氏で、推定当時33歳。
本職、磁性に関する研究の傍ら、趣味で凧揚げにハマり、「"よく揚がる凧の原理"のようなものに気が付いた」とある。これを基に、凧を機能面から見た分類を行ったのが本文書である。
ただし、文書の中でもご本人が言及しているように「この内容は現象論にすぎず、また強引な理屈を並べていて自分自身でも納得できない部分もある。もう少しすっきりとした論理構築のため、各方面からの批判にさらすことにした」という点にはご留意いただきたい。
きっかけ
凧好きの藤田氏が揚がる凧を作ることができるようになったきっかけが、べらぼう凧という秋田県の凧だったそう。
これを自分で作ってみようとあれやこれやと試したが、どうも揚がらない。知人を通じて地元の古老から作り方を教わったところ、一見、作り方は同じだった。しかし、一点だけ違う点があった。
それは、「二本目の骨は極細」ということ。
これを実践して作ったべらぼう凧は、小気味よく空を泳いだ。二本目の骨を極細くすると、空中で風を受けたときに大きく変形する。これにより、凧にあたった風は谷間の方向に流れを作り、左右両側に吹き出すようになると考えられる。
このことをきっかけに、様々な凧の等高線を書いて分析し、凧を分類した。以下に、その系譜を紹介していく。
六角凧
まず、六角凧を考えてみる。この系列は、射方下向きへの吹き出しを基調としている。
べらぼう凧の横方向への吹き出しと比べると、下方向の吹き出し成分がある分、凧を揚がりやすいと推察できる。
変形六角凧
次に、六角凧の下の横骨を短くすると西林式の変形六角凧[要出典]になり、六角凧よりも下方成分が協調される。
西洋の凧
さらにこの下の横骨を取ってしまうと、西洋の凧になる。(文書内では"ボウカイト"と書かれていた)
いわゆる凧型の形であり、安定性の良い凧である。
長崎のハタ
西洋の凧の、横骨をたわめると長崎のハタになる。
このハタは極めて優れた操縦性を持つそうで、その理由はこのたわんだ横骨により、斜め下吹き出しの谷の深さを自在に操れるためである。
ゲイラカイト
1970年代に日本でも大ブームを巻き起こしたゲイラカイト。
深い射下方吹き出しをその凧のすべての機能とする極めて能率の良い凧であり、安定した飛揚をする。
ぐにゃぐにゃだこ
最後に、下方向成分のみで出来ているのが、ぐにゃぐにゃだこである。
凧の系譜
こうしてみると、ひとつの系譜が見えてくる。ここで、六角凧を起点としていることに特に意味はなく、すべての凧の起源であるという意味ではない。
著者は書において、機能面(凧が風を受けたときの風の吹き出し機構)から見た凧の分類を行い、系譜を描いた。
本記事での紹介はここまでにするが、角凧や奴凧への系譜の流れについては元の文献を参照されたい。
所感
凧が揚がる原理としても、凧の変形によって空気の吹き出し口が下向きの成分を持っていれば、揚がりやすいというのは大変よく理解できる。風が凧にあたった後、下向きに流れていく際に、凧はその反作用の結果として上方向に揚がる。
しかし、これは凧が揚がる話の第一段階の話であって、第二段階の安定性については言及されてないように思われる。
安定性については、編集部の「高レイノルズ流における変形物体の安定性に帰着する」というコメントの通りだろう。したがって、単に凧個別の問題(練習問題)にすぎず、一般化された普遍的な原理がその先に無いため、体系的な研究にはなり得ない。