凧の歴史-1999-

今回の文献はこちら。

タイトル凧の歴史
発行物日本航空宇宙学会誌
発行年1999
巻号47 巻 540 号 p. 7-13
著者名黒田 隆二
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jwea1977/18/1/18_1_43/_pdf/-char/ja

▼まとめ

  • 筆者は、航空宇宙学会の者である。
  • 凧と航空機の関わりについて
  • 凧を理科教育にと熱望

まえがき

ミュンヘンになるドイツ博物館には、ドイツのロケットや航空機、人類初飛行に成功したライト兄弟など、さまざまな展示がなされています。

そんな展示品の中に、これでもかというくらいずらりと日本の和凧が並んでおり、著者は「してやったり」と歓声をあげた。

日本では遊びの世界である凧が、ここでは航空機の原点として、航空機の歴史の中に展示されています。

尚2019年時点でも、この博物館には日本の和凧が展示されている模様。こちらの方のブログに詳しい。

凧の起源

凧が発明された時期ははっきりしていないが、紀元前の中国書物「事物紀源」に「韓信が凧を使って相手の城までの距離を測り、トンネルを掘って侵入して相手を攻め落とした」とあり、この頃には既に凧が存在したことが分かる。

いずれにしても、凧の発祥の地は中国であることが定説となっており、それが日本や欧州や米国にまで伝えられ、それぞれの特徴ある発展を遂げた。

日本には、中国から直接渡来したもの、沖縄を経由してもたらされたもの、朝鮮半島を経由して伝わったものなどがある。

代表的な日本の凧といえば、四角形の江戸凧であり、江戸を中心に発達し、庶民の遊びとして定着していた。

元々はいかのぼりと呼ばれていたが、いかのぼり禁止令が出たので、江戸っ子たちは「これはいかではない。たこだ」と屁理屈を述べて、凧揚げに興じた。という逸話ができほど、こどもたちに親しまれたのは間違いない。空飛ぶ芸術あるいは空飛ぶ工芸品として広く庶民に愛され、人々を熱狂させた。

凧揚げは昔はいか揚げだった?

日本の伝統的な遊びである「たこあげ」は、昔から多くの人々に親しまれてきました。 しかし、その呼び名が時代とともにどのように変遷してきたかをご存じでしょうか?実は…

しかし、不思議なことに、それから先に革新的な新しい未来があることには誰も気が付かなかった。

海外における凧

1749年にはウイルソンが寒暖計を凧に積んで、高度と温度の関係を調べている。

1752年にベンジャミン・フランクリンは、糸の代わりに針金を用いて、雷を電気であると実証した。

1803年のイギリスでは、航空機の原型を思わせるグライダー凧がジョージ・ケーリーにより作られた。

1820年代にはイギリスで、サーボラントとよばれる車が凧の引く力を動力に20kmの距離を運行したとの記録がある。

1906年のサンフランシスコ大震災のときの空中写真は、もちろん凧が主役であった。

欧米人にとっては、凧は空飛ぶマシーン以外の何物でもなく、最近になってようやく工芸的な凧の世界が訪れている。

凧と航空機

科学分野で凧の最大の貢献は、航空機の発明に直接利用されたことである。

19世紀末になると、多くの人が凧とエンジンの組み合わせで飛行機を発明しようと競った。

飛行機の開発に加わった人はすべて、立体凧の製作に取り掛かった。

ライト兄弟は、ボックスカイトをどんどん簡素化し、かつ翼を直線ではなく曲線に湾曲させて飛行に成功した。単純化が勝った例としてよく引き合いに出される例である。

凧と航空機誕生の間には切っても切れない縁があることがお分かりいただけたと思う。

日本と欧米の物の見方をこれほどまでに際立たせた例は少ないと思われる。

凧を理科教育に

都会で凧を揚げられる場所が少なくなってきたのは残念だが、ぜひ、理科教育の一環として取り上げてほしいと願っている。

理科離れとよく話題になる。ラジオが手に入りにくかった時代に、夢中になってラジオを作った経験がある読者も多いと思う。自転車のパンクは苦労して自分で直したものだ。当然ながら鉛筆は自分でナイフで削ったものだ。

しかし、考えてみれば、このような創作的な環境は科学技術の発展のとともに身の回りからドンドン消えてしまった。

そこで、凧に再び登場してほしいと願うのである。

ボックスカイト及びそこから発展した立体凧は、市販していないものを、こどもでも自分で作って揚げられる。場所があり、天気が良ければ誰でも楽しめる。

問題は、遊びの中で科学する心を植え付ける仕組みが必要である。

子供たちにそのようなものに興味を持たせるべき多くの指導者の出現が待たれるゆえんである。

凧を教材とするためには、材料(染料、糸、紙)、構造、空力、歴史等広範囲な知識を必要とするが、航空宇宙技術者がそれに一番近い位置にいることは間違いない。

科学に興味を持つということ

科学に興味を持つということ

興味にひかれて夢中になる
夢中になった結果、必ず成功感を味わえる
改良などの工夫が自分だけででき、テストもできる
創意工夫で自分だけのものが持てる
さらに、熱中したくなる
凧がなぜ揚がるのか?
よく揚がる凧と揚がらない凧はどう違うのだろうか?
天井凧と水平に揚がる凧はどこが違うのだろうか?
風速と凧の揚がり方にはどんな関係があるのか?
新しい骨組みの平面凧を作ってみよう
凧の種類を調べてみよう
新しい立体凧を作ってみよう
飛行機凧にはどのような形のものがあるのか?
飛行機凧にはどのような形のものがあるのか?
凧を正確に作る道具を工夫してみよう
凧の大きさと引く力の関係は?
四角い凧は尾が必要なのだろうか?
四角い凧を尻尾なしで安定に揚げるには?
四角い凧の骨組みを工夫してみよう
四角い凧の糸の張り方を工夫してみよう
雨の中でも揚げるにはどう作ればよいか
風がなくても揚がる凧はあるか?
凧はどこまで高く揚がるか?
骨のない凧は作れるか?
凧の骨の材料には何がよいか?
凧に適した紙は?
糸の種類を調べてみよう
なぜ,ライト兄弟は成功したのか?
どんな凧が飛行機の発明を目指して揚げられたか?
たった一本の揚げ糸で,空中で形や色が変化する凧は
可能か?
一人で何個までの凧を同時に揚げられるか?
凧絵はなぜ顔料でなく染料で描くのか?
凧の歴史を調べてみよう
凧のギネス記録は?

遊びを原点としながらも、創意工夫の余地が無限にあり、材料、空力、構造、歴史等幅広い範囲にわたってこれだけのことに興味を沸かせるものは他にない。

凧の奥行の深さは無限である。

ドイツ博物館で「してやったり」と歓声をあげた理由はここにある。