マザーシッププロジェクト

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タイトル将来の日本の危機を救う!“マザーシップ”プロジェクト
発刊物風力エネルギー
発行年2020 年
巻号44 巻 2 号 p. 222-225
著者名板倉 英二
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jwea/44/2/44_222/_pdf

▼まとめ

・トヨタ自動車が凧の研究をしている
・日本列島の上空10000mに存在するジェット気流からエネルギーを取り出したい
・高度10000mまで凧を揚げる研究を行っている

日本の直面する社会課題

日本はエネルギー問題、環境問題、少子高齢化など、多くの社会課題に直面しています。

これらの問題に対処するため、トヨタ自動車株式会社の未来創生センターでは、将来の事業として「マザーシッププロジェクト」を企画しています。このプロジェクトの核となるのは、偏西風を活用した空中風力発電システムです。

偏西風の秘めた力

日本の上空10km付近には、世界でも類を見ない高い風速を持つ偏西風が吹いています。

このエネルギー密度は、地上のそれと比べて桁違いに高く、再生可能エネルギーとしての潜在力は計り知れません。マザーシッププロジェクトでは、この偏西風からエネルギーを「採掘」することで、日本のエネルギー問題だけでなく、社会保障コストの増大や地方の衰退といった課題にも対応しようとしています。

カイトを用いた革新的エネルギー採掘法

プロジェクトの核となるのは、カイト(凧)を用いた空中プラットフォームです。

このカイトは、地上から係留されたテザー(凧糸)によって風力で上空に揚がります。特に注目すべきは、カイトの構造と素材です。膜体インフレータブル構造と呼ばれる、空気を密閉して成形した構造を採用し、テザーには「スーパー繊維」と呼ばれる、日本の繊維企業が得意とする強靭な素材を使用しています。これにより、カイトは高度10kmまで到達し、偏西風の莫大なエネルギーを利用することが可能です。

マザーシップの多様な用途

マザーシップの用途は多岐にわたります。

第一に、発電です。風力タービンやソーラーパネルを搭載したカイトは、地上に比べて3.4倍もの発電量を期待できます。さらに、偏西風を利用した空中風力発電により、地上に発電所を設置することなく、エネルギーを供給できます。

第二に、高品質な通信インフラとしての機能です。雲の上での滞空を活用して、地上や海上の通信環境を大幅に改善することができます。最後に、「スカイフック」としての役割です。強力な揚力を利用して、重量のあるペイロードを上空に持ち上げ、地上の物流や将来的には人のモビリティに革新をもたらすことを目指しています。

技術的挑戦と未来への道

この壮大なプロジェクトは、エネルギー問題の解決だけでなく、日本の将来における多くの社会課題への対応策としても機能します。地方創生、文化多様性の保持、そして新たな産業の創出による税収増加は、マザーシッププロジェクトが目指す重要な成果の一つです。

このプロジェクトによって生み出される雇用機会と新産業は、特に地方経済にとって大きな恩恵をもたらすでしょう。また、限界集落と呼ばれる地域に新たな活力を注入し、日本全体の文化的多様性を維持することにも寄与します。

このプロジェクトは、ただエネルギーを生み出すだけでなく、通信、観測、物流、さらには未来のモビリティ解決策としての役割も担います。マザーシップは、地上から10kmの高さで偏西風のエネルギーを活用し、発電、高品質通信、さらには重い物資の運搬能力を提供します。その機能は、ヘリウム気球とは比較にならないほど強力で、制御可能な揚力により、新しい産業やサービスの創出が期待されます。

プロジェクトの成功は、多くの技術的課題の克服にかかっています。カイトの設計、膜体インフレータブル構造、スーパー繊維テザー、張力・速度調整可能な電動ウィンチの開発は、すべてこの新しい挑戦に必要不可欠です。プロジェクトチームは、技術の確立とともに、この新しいエネルギー源の実現可能性を高め、将来的には日本の上空に恒常的な発電所を設置することを目指しています。

マザーシップと日本の未来

最終的に、「マザーシップ」プロジェクトは日本のエネルギー自給率を改善するだけでなく、社会課題の解決、新産業の創出、そして地方創生に寄与する可能性を秘めています。

この革新的な取り組みは、エネルギー問題に直面している世界中の他の地域にとっても、貴重な示唆を提供します。

日本が直面する社会課題の解決策として、「マザーシップ」は、技術的な革新と社会的な貢献を兼ね備えた未来の光となるでしょう。