ジェット気流発電の研究について-1994~1998-

ジェット気流からエネルギーを採取しようという研究は古くからある。

今回紹介する文献はこちら

タイトルジェット気流発電の研究について
発行物風力エネルギー
発行年1994
巻号18 巻 (1994) 1 号 p. 43-45
著者名宮下 純一
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jwea1977/18/1/18_1_43/_pdf/-char/ja

▼まとめ

・上空1万mにジェット気流が吹いているので、そこで風力発電をしたい。
・パラグライダーに発電機を吊り下げて空に揚げて実験
・構造的な問題で浮力と安定性がトレードオフになっていることが判明した

まえがき

ジェット気流は高度10,000m近辺で80~100m/sの風速があり、第一次オイルショックの頃から注目されている。しかし、技術的に困難であり、試作例は無い。

とはいえ、自然エネルギーの中でも最もエネルギー密度に優れており、日本国上空は地球上においても恵まれており、開発の価値は大変高い。

そこで、筆者は高度5,000m付近でも40~50m/sの風速があることに着目し、小規模試作実験を実施中である。

ジェット気流のエネルギーの特徴

図1は夏期三カ月を除いた上空の風速の確率分布。図2は図1から求めた9カ月間の平均エネルギー密度を示す。

着目すべきは、図2の太陽光とジェット気流との比較である。

図では分かりづらいが、太陽光のエネルギー密度0.16[kW/m2]に対して、上空5,000mのジェット気流は4.5[kW/m2]と約25倍のエネルギー密度を持つ。

経済性検討

著者の試算によると、発電単価は10~20円/kWhとなる。この頃の構想でも、水力発電並みの単価という結果が多い。この頃の太陽光発電コストは数十円/kWhと述べられており、それに比べるとジェット気流発電はコストが安価であるため、この研究の価値は高いと述べられている。

しかし令和3年の資源エネルギー庁の資料によると、太陽光発電の発電単価も10円台となっていることが分かる。

将来構想

この手の発電方式の場合、安全性と航空路との干渉を考慮する必要がある。設置場所の候補地としては、東北地方と九州の太平洋岸600kmが一応考えられる。

発電所を3kmピッチで設置すると、200か所設置できるので、3万kW発電所なら全体で600万kW、10万kW発電所なら2000万kWとなる。

エネルギー庁によると、水力発電所の一基の発電量は100~200万kWほどとのことなので、それ以上の発電規模である。

これが実現されたときの海岸線のイメージが図6である。これが600km続く。

試作研究の状況

図11のコンドル1号を試作した。パラグライダーにヘリウムガスを装填し、下部には直径1mの風車発電機を吊るしてある。

これを実際に揚げようとすると、沢山の問題が発生した。

第一に、風速の問題である。凧揚げの場所としては、学内の滑走地を考えていたが、習志野では3m/s以下の風速と、8m/s以上の風速しか吹かず、5~6m/sの風がほとんどないことが分かった。

何度か試してみたが、人間が浮いたり、試作品が林に突っ込んだり、と散々な結果に。次年度以降には、トラックの走行でチャレンジしたが、後輪が浮いて走行不能になるなどの問題も発生した。

第二に、ヘリウム浮力の問題である。総重量3kgともなれば、ヘリウムの浮力は二乗三乗則により自重を打ち消す程度の浮力しか得られない。

第三に、安定性の問題である。試作品のパラグライダーの形の場合、下反角を持つので安定性に欠けるとのこと。対策としては、重りを吊るして重心を下げる等が考えられるが、これは浮力に反するというジレンマがある。

上反角について調べたらすぐに出てきたすごく分かりやすいサイトです

その後

jstageから分かる範囲では、1994年ごろから本研究がなされ、1998年の文献が最後となっている。

ここで紹介した試作実験の後は、数値計算によるシミュレーションと構造の再検討の報告を最後に、その後の著者による報告は見られない。